政談330
【荻生徂徠『政談』】330
●誓詞文言の事
誓詞の文言に「別しては伊豆・箱根両権現」と書くのは、文盲の至りである。これは『貞永式目』にあるのを書礼者が手本にしたことから、以来、それをよく確かめもせずに用いられてきた。『貞永式目』は北条家が、公事(くじ)裁判にえこひいきをしないという誓約書である。北条の在所は伊豆である。鎌倉は箱根に近い。ゆえに伊豆・箱根と記載した。今は遠くにある国の者で、平生は伊豆・箱根の権現など信仰しないくせに、日本国中どこでも「別しては伊豆・箱根両権現」と書くのは実にいいかげんである。その土地で第一に敬う神社の名を記すべき。
[語釈]●伊豆・箱根両権現 伊豆は伊豆神社(伊豆山権現)。熱海市伊豆山にある。箱根は箱根神社で、元箱根にある。 ●『貞永式目』 御成敗式目のこと。貞永元年(1232)、鎌倉幕府が制定した法典。施行に先立ち、執権北条泰時ら評定衆は同年7月10日、式目の精神である「道理」に従って政治を行なうことを、伊豆・箱根両権現ほか大小神祇に誓いを立てた。
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