1903年の大阪博覧会(3)

1903年の大阪博覧会(3)

 引き続き『滑稽新聞』より。これは文句なく宮武外骨自身の記事。


      ●大阪の博覧会

物事は見ようによって種々(いろいろ)に見えるものである。今度の勧業博覧会もまた然(しか)りで観察の眼(まなこ)を転ずれば種々に見えるようである。

   賄賂(わいろ)の博覧会

と言うておる者もある。ナルホド賄賂の博覧会と言うてもよかろう。出品の陳列も運動の金次第、場内借地も運動の金次第、……近々行われる審査会もハヤ金の噂が高い。皮肉の冷眼をもって見れば、すべて賄賂の現象ならぬは無いようだ。

   広告の博覧会

と言うておる者もある。ナルホド広告の博覧会と言うてもよかろう。元来出品という事が広告の性質を帯びていて、博覧と広告とは自他の別があるのみであるから、すべてが広告的なのも無理はあるまい。……

   美人の博覧会

と言うておる者もある。ナルホド美人の博覧会と言うてもよかろう。出品看守人を始め、売店の売子、場内飲食店の女中など、割合に美人が多いようである。色で釣るという事は、拝金主義の最上手段であろう。

   お祭の博覧会

と言うておる者もある。ナルホドお祭の博覧会と言うてもよかろう。ドンチャンガンチャンの大騒ぎと、訳もなく東西南北に走り廻っておる様(さま)を見ると今にどこからか、御輿(みこし)のお渡りでもあるのかと思われるくらい。

   暴利の博覧会

と言うておる者もある。ナルホド暴利の博覧会と言うてもよかろう。日曜日には二枚切符だの、……飲食店の勘定など、すべて暴利ならぬは無い。ある事務員が、「お前とこの店はチト高過ぎるという評判があるぜ」と責めたら、主人は蔭で「ソンナラ先日の賄賂をお返しなさい、安くします」と言うたとの話もある。聞けば暴利も尤(もっと)もの次第だ。

   失敗の博覧会

と言うておる者もある。ナルホド失敗の博覧会と言うてもよかろう。開場後間もない今日、ハヤあれも失敗だ、これも失敗だ、何某(なにがし)の興行も失敗だ、……との噂である。……まず失敗の博覧会と言うのが適評であろう。アマリ欲に走る者が多いから斯様(かよう)な事になるのである。

   博覧会の博覧会

と言うておる者は無い。ナルホドそれは無いはずだ。この記事が博覧会の博覧会であるまでの事だ。


 博覧会とはなんなのか。なんのために開くのか。こういったことが案外、不明確、不明朗である。しかも、本義とは関係なくいろいろな運動があり、カネが動き、派手な広告宣伝をぶち上げ、それぞれの私利私欲のために利用する場となっている。これでは博覧会とはいえないし、失敗と言われても仕方がない……100年以上前の博覧会でさえこんな状態だった。

 これから行われようとしている大阪万博。知事と市長が積極的に動き、特に知事はコロナに関する会見の場でも万博のロゴ入りの服を着て無言の宣伝に余念がないが、そもそも博覧会とはなんなのか、今一度説明が欲しいところである。そして、今一度、大阪に宮武外骨が再来してほしいものである。

過去の出来事

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