南留別志78
荻生徂徠著『南留別志』78
一 職人歌合に、太凝菜[こころぶと]を売る人の、こゝろていとよぶといふ事あり。それより又、ところてんとなれるなり。
[語釈]
●職人歌合 しょくにんうたあわせ。職人を題材とした中世の歌合。歌、判詞のみでなく職人の姿絵も描かれていることから職人歌合絵巻、職人尽絵(しょくにんづくしえ)、職人歌合絵草子(しょくにんうたあわせえぞうし)とも呼ばれる。鎌倉時代、室町時代のもの各2種計5作品が知られている。「七十一番職人歌合」に女性の心太売りが描かれている。
[解説]トコロテンは漢字で「心太」と表記するが、徂徠によれば、元は「太凝菜」(こころぶと)といい、これを売る人が「こころてい」という呼び声を発したことから、それが訛って「ところてん」となったとする。一般には、正倉院所蔵の文書に「心天」という表記があり、奈良時代には「こころてん」という呼び名がされていたとされている。また、室町頃までは「こころふと」とも呼ばれていた。江戸時代には「心太」と表記して「ところてん」と読むようになった。トコロテンは海藻の天草(てんぐさ)などで作った寒天を煮溶かし、それを固めて容器(ところてん突き)に入れ、上から押し出すとうどん状になって出てくる。これが我々の食するトコロテン。「太凝菜」の「凝」が固めることを指す。
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