南留別志265

荻生徂徠著『南留別志』265

一 絶句を、三行三字、律詩を五行三字にかくといふは、歌の懐紙(かいし)の真似をして、五山の僧のしいだしたるなるべし。


[解説]懐紙とは字のとおり懐(ふところ)に入れて持ち歩く紙のこと。ちり紙やハンカチ、包み紙、メモ帳などとして使った。このうち、和歌を書き付けるものを和歌懐紙といい、漢詩を書き付けるものを詩懐紙といった(もともと詩とは漢詩のこと)。

 漢詩のうち、定型である絶句は四行、律詩は八行から成り、字数はどちらも五字ないし七字で、字数が四字のものや不揃いのものは古体詩、10句以上で冒頭と末尾以外すべて対句となっているものは排律(はいりつ)という。句数が多くても規則に合致しないものはこれも古体詩に入れる。

 我が国では定型の絶句や律詩を書き付ける際、三字ずつ分けて書くことが詩懐紙で行われた。徂徠は、こういう書式は鎌倉ないし京都の五山の僧侶によって始められたものだろうとする。

 画像は「三蹟」と称えられる平安時代の書の名人のひとり、藤原佐理の26歳の時の書で国宝。香川県ミュージアム蔵。

花脣不語偸思得、隔水紅桜光暗親、両岸芳菲浮浪上、流鶯尽日報残春

花脣:花びら、花弁。

芳菲:ほうひ。草花のよいにおいがすること。また、草花が美しく咲きにおっていること。

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