南留別志208

荻生徂徠著『南留別志』208

一 山ごもり、大殿ごもり、妻もこもれり、われもこもれり、隠の字なるべし。こもりくのはつせといふ事あり。


[語釈]

●山ごもり 山中に隠遁すること。山寺などにこもって修行すること。 

●大殿ごもり 大殿に籠ることから、貴人が寝ることを敬っていう語。おやすみになる。 

●妻もこもれり、われもこもれり 両方合わせて、夫婦が同じ所に籠り住むこと。籠るには、物忌みのために籠るという意味もある。 

●こもりくのはつせ 隠国の泊瀬。隠国は奥深い山間に隠れた地のこと。ここでは泊瀬にかかる枕詞。万葉集からすでに詠まれ、具体的には奈良の初瀬の地。そこにある長谷寺(初瀬寺、泊瀬寺、豊山寺とも)参りは平安女性貴族たちの憧れだった。


[解説]山奥などにこもることを「籠る」と記すが、徂徠は「隠」(隠棲、隠退、隠遁)の字のほうがよいとする。隠は世間、世俗から離れることで、引き籠る「籠」とは意味合いが異なる。

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