斉諧俗談164
斉諧俗談 164
(承前)
捜神記に言う、呉(ご)の孫権の時に、李信純という者があり、一匹の犬を養っていた。名を黒龍という。李は黒龍をとてもかわいがっていた。ある時、李は大いに酔って草むらに寝転んでいた。その時、たまたま太守が猟に出て、獲物をおびき出すために草むらに火をかけさせた。李は火の手が迫っていることも知らず熟睡していた。犬は必死に李の衣を口に加えて引っ張るが、李は目を覚まさない。近くに川があるのを知った犬は急いで川に入り、体を水に浸すと、李が寝ている回りにその水をかけるということを何度もやった。おかげで、主人に火が燃え移るということがなく無事だった。しかし、犬は疲れ果て、主人の側に倒れて死んでしまった。その時、李は目が覚め、見ると黒龍が全身ずぶ濡れの状態で死んでいる。いったい、これはどうしたことかといぶかった。あとで太守がこの事を聞くと、「犬が恩に報いる心は、なんと人よりも厚いことよ」と嘆きながら言われた。家来に命じて立派な棺桶や衣装をあつらえさせ、忠心厚い犬をねんごろに葬った。今、紀南に義犬堂[ぎけんどう]という堂があり、高さは十余丈もある立派なものだという。
0コメント