斉諧俗談121
斉諧俗談 121
〇夢野[ゆめの]
摂津の国湊川の近所に、夢野という所がある。
〔割注〕本名は闘鶏野という。
伝承に言う、昔、大伴黒主[おおとものくろぬし]がこの地に住んでいた時のこと、ある日の明け方に二匹の鹿が問答をしているのが聞こえた。牡鹿[おしか]が言う、「自分は夢で背の上に霜が降るのを見たぞ」と。牝鹿[めしか]が答えた、「それは悪夢ですよ。恐らくは人のために殺される前兆でしょう」と。黒主は怪しく思い、なおも様子を見ていると、果たして猟師が来て牡鹿を捕まえて肉を割き、塩漬けにしてしまった。このことからこの地を夢野と呼ぶようになったという。
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