斉諧俗談53

斉諧俗談 53

〇王猛鬻畚[おうもうかごをひさぐ]

晋書(しんじょ)に言う、王猛という人は、若い時は畚[かご]を売る商売をしていた。ある時、畚を買いに来た人がおり、王はわざと高い値段で売った。しかし、その人は持ち合わせがなかった。王はその人とともに深山の中にある家に行くと、老いた父があぐらをかいてうずくまるように座っていた。畚の値段の十倍の金を払い、人をつけて王を送らせたということだ。


[解説]この話はこれだけでは意味が分からないので、王猛はは五胡十六国時代の前秦の宰相で、苻堅(ふけん)の覇業を全面的に補佐した賢臣で、華北統一に貢献した名政治家。諸葛孔明にも比せられるほどの人物で、家柄はよかったものの貧しかったために、若い頃は竹細工のかごなどを行商して苦労したという話です。当時、前秦の皇帝だった苻生(ふせい)は気ままに官僚や女官らを拷問にかけたり殺したりと猛烈な暴君。中国が分裂していた時の小国にはこのような暗愚な支配者があちこちにいてひどいものでした。苻堅は王猛を登用すると、他の重臣らと謀って苻生を暗殺。以後、王猛が中心となって法を整え、儒教に基づく教育の普及、戸籍制度の確立(荻生徂徠も将軍吉宗に進言)、街道整備や農業奨励など、内政の充実に力を注ぎ、氐族の力を抑えて民族間の融和を図るなど、現在は無名な人ですが、大変な人格者でした。また、戦乱続きの世にあって、常に総大将として兵士たちの先頭に立って敵陣に斬り込み、勇将そのものでした。そんな王猛の若き日の逸話です。

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