斉諧俗談26

斉諧俗談 26

〇竜馬神[りゅうめじん]

摂津の国多田庄(ただのしょう)波豆村(はずむら)に、慈光山[じこうざん]普明寺[ふみょうじ]という寺がある。この寺の宝物に馬の頭がある。言い伝えにいう、康保四年の冬、源の満仲公が能勢(のせ)の山で狩りをしておられた時のこと。夜、夢の中に竜女が現れて言った。「川下の池に大蛇がいます。私に悪さをして数年にもなります。どうかそなたが退治してください。この竜馬を差し上げましょう」と。ここで夢が覚めたが、果たして一匹の馬が側にいた。満仲公は奇異なことと思いながら、その馬にまたがり、言われた所に行って大蛇を退治された。その後、満仲公逝去ののち、御孫の満信殿に至るまでこの馬を大切にされたが、ついに死んでしまった。家臣の藤原の仲光という者が、馬の屍を山に埋め、堂宇を建てて駒塚山峯の堂と名付けた。その後、後土御門院の文明二年三月十八日より、毎夜駒塚より光が出て、普明寺を照らした。時に住持は玉岩(ぎょくがん)和尚だったが、和尚は駒塚に行き、普門品(ふもんぼん)を読誦した。すると、たちまち雷鳴が轟き、馬の頭が出現した。和尚はそれを持ち帰り、金堂に安置して竜馬神と名付けたということだ。


[語釈]

摂津国多田庄波豆村 現在の兵庫県宝塚市の一部。

普門品 法華経第二十五品(ほん)「観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)普門品」の略称。観音経。法華経の中でこれだけを取り出して読むことが多い。

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