政談427

【荻生徂徠『政談』】427

 ●地子銭の事

 京・江戸・大坂・伏見などでは地子銭(じしせん)を徴収しないが、これは古法に違うことである。田舎の地では年貢を取らない地はない。都も昔は取っていた。百姓ばかりより年貢を取り、町人より取らないのはどういう理由であるのか。なぜ町人だけ結構な扱いをするのか。これを始めたのは明智日向守光秀である。この悪例を太閤秀吉が利用して大坂の町人も免除して優遇し、やがて江戸でも真似をするようになったものと見える。明智は主君を殺した人である。信長公は徳川家の御味方である。しかるに、末代まで人々をことさら有難がらせる狡猾な明智のやり方を採用するのはなぜなのか。


[語釈]●地子銭 土地や家屋に賦課した税。大名屋敷は幕府から貸与されているものとして非課税。但し、改易などで処罰されると没収され、ただちに退去させられた。町人(ここでは狭義で、事業主。本店のほか支店も複数持ち、大勢の従業員を雇い、更に長屋などの賃貸もした)も非課税とされたが、これについて徂徠は不公平であり、徳川家の味方だった信長を殺した明智光秀が始めた悪制をわざわざ踏襲するのはおかしいと批判する。しかし、明智より先に信長が美濃加茂に対する楽市令(永禄10年、1567年)で優遇措置をしている。細かなことで博識な徂徠でも知らないことはあっても仕方ないが、悪人だから悪制をやったと決めつけるのはいささか感情に走ったものであり、銘とすべきであろう。

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