政談425
【荻生徂徠『政談』】425
●名乗の事
今は名乗(なのり)は普段あまり呼ばれないため、幾度も思うがままに付け替える。このため、同名がおびただしくある。名乗を返すにあたり、意味をよく理解していないため、ただ作法のように形式的に返す。そのため通り字というものがあり、姓に合わせて返り字のよいものを用いる結果、同名が増えてしまうことになる。
[語釈]●名乗 公家や武家などで、その男子が元服・成人のときに、幼名・通称にかえてつける実名または本名のこと。父親または名付け親の名の一字(片名(かたな))をとってつける場合が多かった。名乗は字音(じおん)を使わず、また字訓(じくん)も常訓と異なるものが多く、また字性と人性の相克を嫌い、相生(そうせい)を考慮に入れたりしたので、難訓のものも少なくなかった。このため江戸時代には各種の名乗字引(じびき)、名乗字彙(じい)が板行された。 ●名乗を返す 名前を決めるにあたり、二字の上の字の頭子音と、下の字の韻を合わせて一字を作り、その字の吉凶によって名前を定めること。漢文における反切(はんせつ)と同じ。たとえば、赤穂藩家老の大石内蔵助は「良雄」という名前だが、これは「よしたか」と読む。「よしお」とする人もいるが、この名こそ名乗の返しに則っており、良(りょう)と雄(ゆう)を合わせると「りゅう」になる。「りゅう」は「隆」で、訓読みは「たか(し)」。そこで、良雄は「よしたか」という常訓と異なる読みをさせた。福本日南が『元禄快挙禄』でこのことを解き明かしている。 ●通り字 その家に代々伝わる名前の文字。源氏の「頼」「義」、平氏の「盛」、徳川将軍家の「家」など。
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