政談418

【荻生徂徠『政談』】418

 ●度牒の事

 度牒の制度を再興しなければ、出家の統治は難しいだろう。古は三カ所の寺のみで戒壇が行われたが、今は諸宗派別々となったため、各宗の本山に戒壇を立てており、そこから度牒を交付させるのがよい。そうすれば、なによりも偽の僧が紛れることがなくなる。出家の数も減るだろう。戒律が厳しくなり、出家の奢りもなくなり、殊勝になる。但し、戒律を律宗のようにすると、諸宗には受け入れがたいかもしれない。律宗の規則は仏制であるが、時代の風俗が大きく変わり、国も違うにもかかわらず、ただ形ばかり墨守したため却って偽りが多い。今の風俗に合わせて大乗戒を用い、奢りを鎮め、僧の悪風を止めることを主眼とすべき。これについては学徳ある僧へ御相談の上採用し、その僧を直ちに本寺へ住持させ、国師・禅師・僧正といった身分にして導かせたならば、すみやかに直ることである。


[語釈]●古は三カ所の寺のみで戒壇が行われた 奈良時代、大和東大寺、下野薬師寺、筑前観世音寺に戒壇が設けられ、授戒が行われた。それ以前は我が国には戒壇がなかったため、唐から鑑真和上を招き、東大寺大仏殿前で、聖武太上天皇、光明皇太后、孝謙天皇らに菩薩戒を授け、沙弥、僧に具足戒を授け、授戒の法が我が国でも行われるようになった。律宗は鑑真を開祖とする。 ●大乗戒 伝教大師最澄が奈良の戒律を小乗戒とし、これと区別して大乗戒を開いた。 ●国師 奈良時代、各国に置かれた国分寺を監督した僧官。 ●禅師 奈良時代、宮中の仏間に奉仕した僧。

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