政談318

【荻生徂徠『政談』】318

 ●御殿の事

 御所を修復される時分には、心得ておくべきことがある。古代は御所もその外も、それぞれ建物を独立させ、間に空地が多かった。このため、火事や地震の際被害が広がらず、人が大勢行き来するにも便利であった。天皇は地面をお踏みあそばされないというのは、後世の作り事である。やがて、建物を作り続け、雨に濡れることもなく建物の中を行き来できるが、古法とは違うために弊害もまた多い。御所などはどの建物も広大なものを作り続けたため、火もすぐには消えないであろう。また、広大なものを作り続けたため、所々屋根に引き窓を設けて明かり取りにしたため、火の粉を防ぐのも容易ではない。御庭が少なく、大地震の時に人々がけがをする恐れもある。これらについては、御修復の際に何か改善する方法があるのではないか。


[解説]これは都市の問題として重要である。建物が増えるにつれて隣の建物との間隔が狭くなる。また、建物自体が大型化するにつれて、これまた隣との土地の余裕がなくなる。火事や地震が起きると、自分の建物に被害がないのに、隣の建物が倒壊してそのあおりを受けたり、火事の場合は密集すればするほど延焼に見舞われる。風が強いと火の粉により、出火場所が離れていてももらい火事になる。鉄道が蒸気機関車が主流だった時代は機関車の火の粉が沿線の山林や家屋に飛んで燃えるということが頻発した。このため、徂徠は御所や大名その他の家屋敷を改築、修繕する際には、予防措置を合わせて採るべきことを説く。

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