政談312
【荻生徂徠『政談』】312
(承前) 御触の文言、近年は悪くなった。正徳の頃からは文言が回りくどく聞きづらい。下への号令は下の者たちがよく理解し、まちがいがないようにすることが肝要である。これらは些細なことのようだが、御触は諸大名が筆写し、遠国までも見るものであるから、文言が悪いと必ず下で不満が出る。これは公儀の役人がいいかげんなことを天下に知らせることだから、注意しなければならない。易経の観の卦(け)の所で号令について説いてあり、「観」は「しめす」と読む字である。人に見せ知らせること。されば、号令は天下に知らせ、その文言も天下の人々に見せるものだから、よく気をつけなければならないことは、古よりの道理である。
[解説]6代将軍家宣に重用された新井白石が起草した法令は独特の文言(もんごん)で、わかりづらいという批判が当時からあった。徂徠は、幕府の出す法令は天下に示し、万民が理解しなければならない重要なものだから、つとめて分かりやすいものにすべきと説く。しかし、そういう理由とは別に、徂徠の白石に対するライバル心はとても強く、早く白石による法令を分かりやすいものに変えるべきと言いながら白石そのものを否定せずにはいられないわけである。
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