政談295

【荻生徂徠『政談』】295

(承前) 町人足を足軽や中間(ちゅうげん)に仕立てることは、ひと頃はそういう指示もなされたものの、今は元のようにひそかに行われている。つまりこれは、門番は御城の警衛をするという本意を忘れ、番所に勤めなじんだ巧者を召し抱えておき、少しも手落ちがないようにという詰(つめ)ひらき第一の考えから起こっている。町人足を足軽や中間にするといったことは、期間を決めた出替わり奉公人という風潮が止まぬうちは、このごまかしもなくならないことだろう。


[語釈]●町人足 江戸の町には田や畑が無かったため、町人は百姓と比べると、年貢の負担が軽かった。その分、貨幣の支払いや町人足役などの負担があった。町人足役とは、上下水道の整備、城郭の清掃、都市機能の維持のような負担のこと。徂徠によると、江戸城の門番にまで町人足を使い、そのままの身分では差し障りがあるため、にわか足軽・にわか中間にして警衛に当たらせたようだ。 ●詰ひらき 進退・行動。蹴鞠の詰(前進)・開き(後退)より。


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