新釈漢文大系『小学』のこと
新釈漢文大系の『小学』は第1期刊行分から編入され、江戸時代には初学者用、童蒙のための書として大いに読まれたものの、『大学』『中庸』といった歴史ある経書とは違い、朱熹により編まれた新しいものであること、分量が多く、すぐに通読することができないことなどから、明治以降は次第に看過されるようになりました。専門家でもほとんど相手にしません。
それだけに、当時の編集陣の慧眼は称賛に値し、もし第1期に入れられなければ、その後も採用されたかどうかわかりません。
著者の故・宇野精一博士は本書担当として適任と言えるでしょう。新釈ではこの他『孔子家語』も担当されていますが、これも時宜に叶ったものです。
東大名誉教授の宇野博士の講義は私が学生だった時はすでに退官されており、謦咳に接することはできませんでした。ただ、かろうじて非常勤の講義を聴講したことがあり、とても背が高くて(孔子のよう)細身、剛毅朴訥の儒者然とした印象でした。ご尊父の宇野哲人も漢学者で、専門で斯学をやる人ならその著書は必ず目を通すほど戦前における大家。また、息子さんも中国文学者で、典型的な漢学者一家です。
学者としてはとても立派でしたが、晩年、急速に(もともとその傾向はあったようですが)いわゆる愛国保守の重鎮としてその方面で活動し、かの日本会議の顧問となり、ご自身でも明言されていましたが、完全な右翼の人となってしまわれた。
一説には、「平成」の年号選定に関わっているとされ、また、次の年号は宇野博士が生前、候補を挙げたとも言われています。
とまれ、『小学』の精緻な全訳は新釈漢文大系に依らなければならないほどで、今後もその地位は当分変わらないでしょう。
http://www.meijishoin.co.jp/book/b98404.html
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