政談265
【荻生徂徠『政談』】265
(承前) そもそも、御政道はお上の私事ではない。天より仰せつけられた職分である。まして老中以下の諸職はお上より仰せつけられた職分である。身分の軽い下位の人でも、御政務に関することを申し上げるのは、その範囲においてはお上と同役である。老中・諸役人ともにしばらくの間は同役の関係なのだから、下の人も遠慮するには及ばない。ただ、下の人は御威光に畏れをなして、どれだけ目をかけられ面倒を見てもらっても、思ったことが言えないのは下の人ならではの浅ましさであり、人情でもある。ことに下の人たる人は、事を論じる時は同役としても、お上は常住の役目であり、下の人がその事について詳しくなくても、上が決めた方針である以上は、上たる人からそのように言わせるようにしてしまう。これが実情である。
[解説]政治は為政者の私事ではないという徂徠の言葉、まったくその通りである。為政者が私費で国民を養っているのであればまだしも、我々は為政者から直接金銭的援助は一切受けていない。それぞれ自分で働き、その対価を得て、その中から税を納めている。日々購入する物品にも消費税がかけられており、自身収入のないご老人から幼児でも、何かを買ったり利用すれば税を取られる。今の為政者は、どれだけこの基本的事実、制度を理解しているか。投票してくれた支持者だけが国民ではない。好むと好まざるとに関わらず、政治はすべての人に対して行われる。ここに私情をさしはさむことは許されない。ましてや、今は身分のない社会。選挙で代表として選ばれた者が議員、首長となり、議員(代議士)の中から首相が選ばれる。どれほど重い任務を負っているか。そういう意識、畏れがあれば、天下に向かって嘘いつわりをつくことなどとてもできないはずだし、特定の者にのみ恩恵を与える、従って大多数の国民にとっては害であり迷惑でしかない「悪法」を強行成立させるなど、逆にそういうことは許さない気持ちになるはず。原文は「御政務の筋は上のわたくし事にあらず」。本書における名文の一つといえる。
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