政談185
【荻生徂徠『政談』】185
政 談 巻之三
●人の扱いの発端
国のしまり、財政を豊かにする方法は、第一・第二の巻に記した通り。これらを取り捌くのは役人である。役人に関して、役儀の立て方などにいささか良くない事があるので、それについて左に記すことにする。
●官位爵禄の次第ならびに勲階の事
古より官・位・爵・禄というのがある。官というのは、今の公職である。位は、今の座席(階級)のこと。爵は、官位の他に別に栄誉を置き、これを人に給わることで、今の官位のこと。今の官位は、昔の公家の御代には公職を官と言い、座席を位と言ったが、今は名ばかりとなり、武家の公職と席とは別に官位を与えることから、今の官位は古の爵に該当する。禄は古も今も変わりなし。
[解説]巻三は官僚について。人事制度から職務内容、登用の仕方など、行政に携わる者の在り方について述べたもので、『政談』中もっともすぐれた部分とされている。あまりに先進的であるため、将軍に進呈した書物にもかかわらず「危険な考えである」として禁書扱いとなり、以後の江戸時代では筆写されてひそかに読まれたほど。詳細は御覧いただければわかるが、特に人材登用について、身分や家格に関係なく優秀な者は採用、抜擢すること、という意見。これは当時の身分制度そのものを否定し、破壊するものとして恐れられ、赤穂浪士たちを切腹すべしと上申したことも合わせて、中国における王安石(おうあんせき 大政治家にして詩人、文人)同様、反対派などから悪名が鼓吹され、本来なら徂徠の名は幕末の志士といわれる者たちより轟くほどなのに、脇にやられたまま現在に至っている。悪事を重ねても盛名が轟き、安楽のうちに生涯を終えた者は善人、勇者のように称えられる一方、世の為人の為に苦心しても報われずに消える人もいる。歴史というのは難しいものです。
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