政談164

【荻生徂徠『政談』】164

(承前) しかるに、今は金銀が半分に減って慶長の昔に返った状態だが、世の中が移り変わり常識となった風俗は、慶長の頃とはだいぶ異なっている。増えた竈(かまど)の数も昔のように戻さなければ、人々の身代は半分になって世の中が困窮してしまうのに、「世の中はよくなるはず」と言う者がいるのは、世の中全体の姿を知らぬ愚昧な者と言えよう。物価が高くなったのは、元禄の時に金銀に混ぜ物をして価値を下げたためだけではない。また、金銀の発行数が増えたから値上がりしたわけでもない。元来、旅宿の状態になったところへ制度がないため、世の中の商人の勢いが盛んとなり、さまざまな要因が混ざり合って次第に物価が高くなったうえに、元禄に粗悪な金銀を増やした頃に人々の移動が盛んとなり、田舎まで商人が行くようになり、いろいろな品物を買い求める人が多くなった結果、物価が高騰したのである。このような状態になったのをそのままにして、今金銀を半減させてしまったことで人々の身代も半分となり、金銀が不足して世の中が困窮してしまったことは明白である。


[解説]したり顔で「この政策により世の中はよくなる」「国民あまねく恩恵を受ける」と言う政治家や評論家が特に政権側に多いが、悪化した原因は常に前の政権(現野党)に転嫁し、「よくなる」を繰り返しながら一向によくならない。よくする気がないのではないかとさえ思ってしまうが、こういうのを徂徠は「愚昧」としている。肝に銘じておきたい。


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