古書の書き込み(5)
古書の書き込み(5)
漢籍国字解全書 第廿四巻 戦国策 中
昭和三年三月二十日午後二時三十分、早稲田ニ行キテ本書ヲ得テ帰ル。所憾ハ前編ノ通リ。
佐 拳
短い序文です。戦国策の上巻にいろいろ書きつけたようですが、如何せん、上巻は入手できなかったため、見ることができません。蔵書一代という言葉があるように、せっかく苦労して蒐めた書物も、所有者が亡くなると処分され、揃いの本も散逸してしまう。著名な学者や作家、蔵書家の書物は大学などに寄贈されることもあるものの、それとて全部ではなくおもなものだけ。作家の蔵書がまるごと旧宅に保存されているのは奇跡ともいえる。一般人だと、当人には必要な書物でも、家人にとっては邪魔でしかない。生前から本が邪魔扱いされ、買って帰るたびに「また読みもしない本を買って」と言われる。これは私もいつも言われていることです。
せっかく格調高い文語で逐一序文を記した笹原氏、佐拳氏の国字解全書もひとたび古書店にてバラ売りされると、それぞれ欲しい書目から売れてゆく。私が購入したのは四書や古文真宝、文章軌範といったもので、相手にされないものばかり。それでも縁あって数冊購入出来、こうして紹介させていただく気にさせられたのだから、書物のつながりは馬鹿にはできない。
学者の蔵書といえば、昨今の反知性主義、歴史修正主義は思わぬ形で広がっているようで、桑原武夫氏の貴重な旧蔵書を京都市が無断で廃棄処分した愚挙、蛮行は厳しく非難されなければなりません。
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