古書の書き込み(4)
古書の書き込み(4)
漢籍国字解全書 第一巻 孝経・大学・中庸・論語
二月二十六日、文学科卒業試験問題・答案ヲ持参シ出版部ニ行キシニ、仝書ノ予約出版ノ事アリ。仝二十八日、再ビ早稲田ニ到リ予約申込ミ為(な)シ、三月十七日午後二時、本書ヲ受取リ、柳島行電車ニ乗車シ、第一頁ヨリ読ミフケリテ、厩橋(うまやばし)迄書中ノ人ト為リテ来(きた)ル。
本所区若宮町二十番地
笹 原 義 治
記念すべきこの全書の第一巻。この時は笹原氏は早大の学生だったのでしょうか。卒業にあたり、本シリーズの予約申し込みを出版部にしています。電車は市電(のちの都電=廃止)。東京市電のことは芥川をはじめ、戦前の東京在の作家その他の人たちの随筆類によく登場します。なにしろ縦横に走っていたのですから。上京したばかりの子規はこわごわ線路を渡ったことを綴っていますね。
本所に柳島。遠い江戸がすぐそこにあるような感じがします。
笹原氏は見開きにこそ序文の書き込みをされているものの、その他のページにはほとんど書き込みがなく、隅を折り曲げてシルシにするといったこともされていない。本を丁寧に扱われたようです。その後、別の持ち主があったなら、その人も同じく大切にされたのでしょう。
ただ、ほんの少しだけ、線を引いた所が見受けられます。重要な部分、あるいは共感した箇所といったところなのでしょう。
参考までに例を。
これは「大学」の35ページ。「大学」は「中庸」とともにもとは「礼記」(らいき)にあった篇で、「大学」は孔子の弟子の1人、曽参(そうしん)の作、「中庸」は孔子の孫の子思(しし)の作といわれ、どちらも儒家の入門書として早くから尊ばれ、南宋時代の大学者、朱熹(しゅき。尊称して朱子と呼ばれる)が「論語」「孟子」とともに四書として独立させ、注釈をつけた。これが江戸時代の日本で大いに読まれ、標準的な解釈としても使われています。
ちなみに、薪を背負いながら書物を読んでいる二宮金次郎の像(戦前から戦中にかけて、修身の象徴として全国の小学校などに置かれたアレ)。その書物は「大学」と言われています。像の書物はとても分厚いものが多いですが、「大学」はとても薄いものです。
笹原氏が線を引いた文はとても有名で、「つまらぬ者は人目のない所ではよからぬことをする」というもの。通常は一人きりになると悪事をするというふうに解釈されていますが、総理を含む4人が酒を手にニヤついた場面を「男たちの悪巧み」と妻が銘打ってFBにアップしたように、こういうのも「小人閑居して不善をなす」であり、昔からいましめとして肝に銘じたものです。
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