訓蒙図彙319

訓蒙図彙 319 虫介の部

両頭(りょうとう) a double-headed snake with a head on each end of its body

[訓読]両頭 りやうとう(りょうとう) 両頭蛇(りょうとうじゃ)なり。一名、越丰蛇(えつぼうじゃ)。


[通釈]両頭 りょうとう 両頭の蛇である。一名、越丰蛇。


[解説]

これは伝承上のもので、中国古代に孫叔敖(そんしゅくごう)と両頭の蛇という話ずある。

賈誼(かぎ)の『新書(しんじょ)』卷六「春秋」に次のような話がある。

孫叔敖(そんしゅくごう)のがまだ幼な児だった時、外で遊んで帰ったところ、とても思い悩んだ様子でご飯も食べようとしない。

 母がどうしたのと聞いたところ、泣き出して言うには、

「今日、両頭の蛇を見つけたの。だから、もうじきぼくは死んでしまうんだ」と。

 母が言った、「その蛇はいまどこにいるの」。

「『両頭の蛇を見た者は死ぬ』というから、さらに他の人が見たらいけないから、ぼくが土の中に埋めてしまった」

「心配しなくていいよ。お前は死にはしない。『陰徳がある人は、天が福を授けてくれる』というじゃないの。お前は良い事をしたのだから、大丈夫よ」

 これを聞いた人々は、皆孫叔敖の行動が良いことであるのを悟った。

 やがて孫叔敖は宰相にまで出世し、まだ国を治めない前から孫叔敖のことを信奉したという。

この話は劉向(りゅうきょう)『新序』雑事一、劉向『列女傳』仁智「孫叔敖母」、王充『論衡(ろんこう)』福虚にもみえる。

参考までに原文と書き下し文を。

孫叔敖之為嬰兒也、出遊而還。 憂而不食。 其母問其故、泣而對曰、「今日吾見兩頭蛇、恐去死無日矣。」 其母曰、「今蛇安在?」 曰、「吾聞見兩頭蛇者死、吾恐他人又見、吾已埋之也。」 其母曰、「無憂、汝不死。 吾聞之、『有陰德者,天報以福。』」 人聞之、皆諭其能仁也。 及為令尹、未治而國人信之。

孫叔敖(そんしゅくごう)の嬰児(えいじ)たるや、出(い)で遊びて還(かえ)る。憂(うれ)えて食(くら)わず。其の母 其の故(ゆえ)を問う。泣きて対(こた)えて曰(いわ)く、「今日 吾(われ)両頭の蛇を見たり、去死(きょし)すること日無からんを恐る。」と。其の母曰く、「今蛇安(いづく)くにか在(あ)る?」と。曰く、「吾聞く『両頭の蛇を見る者は死す』と、吾他人の又(また)見んことを恐れ、吾已(すで)に之(これ、=蛇)を埋めたり。」と。其の母曰く、「憂(うれ)うること無かれ。 汝(なんじ)死せじ。 吾之(これ)を聞く、『陰徳有る者は、天 報(むく)ゆるに福を以(もっ)てす。』」と。人之を聞き、皆其の能(よ)く仁なるを諭(さと)れり。令尹(れいいん)と為(な)るに及(およ)びて、未(いま)だ治めずして国人之(これ)を信ぜり。

 分量といい内容といい、大学の入試に手頃な感じがする。

 下の絵は北渓画「両頭の蛇」(部分)。


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