佛像圖彙90
【90】千手観音(せんじゅかんおん)
[通釈]
七観音
観音の利益をそれぞれ特化象徴したもの。先ず六観音が成立。真言宗(東密)では聖・千手・十一面・馬頭・如意輪・准胝。天台宗(台密)では准胝の代わりに不空羂索を入れる。
此の六観音に不空羂索・准胝をそれぞれ加えたのが七観音音。
千手観音 梵字はキリーク
千手というが実は四十の手を持つ。四十の手がそれぞれ二十五の救いを表すので都合千手となる。
根本印は九頭龍印(くずりゅういん)。また大悲観世音という。
[注]
実際に千本の手を持つ造像は少なく、南都唐招提寺の立像と河内葛井寺(ふじいでら)の座像(=下画像)は有名。正面の大手二本の他小手四十が主。小手には眼が有り千手千眼ともいわれる。
近江長浜の正妙寺には全国でも唯一と思われる千手千足観音がある。しかも憤怒相と極めて珍しい。室町期の造立とされる。
[解説]
これより古来多くの人々の信仰を集めた観音さまの数々が登場する。『般若心経』の冒頭の「観自在菩薩」が正しい尊名だが、悩みや願い事など、何でも聞き届けてくれるということから観音菩薩ともいい、むしろこのほうが人口に膾炙している。なお、「かんのん」というのは音便化した読みであり(天皇が「てんおう」ではなく「てんのう」と読むように)、正しくは「かんおん」であり、旧仮名遣いでは「くわんおん」である。
上の通釈の項にもあるように、観音さまにもそれぞれ特徴があり、最初に登場したのは、差し伸べる手をたくさん持つ千手観音である。さすがに造像で実際に千本も手を作るのは大変だが、幸い、一本の手で二十五の救いを表すという教えの助けを借りる形で、四十本としているものが大半である。
一人の人を助けるには一本の手が必要。しかし、二本の腕しかないから、最大二人の人しか救えない。二人を救った後、別の二人を救うが、この調子では手間がかかり、大勢の人を直ちに救うことはできない。早く救ってあげたい、そういう強い思いが千手となったのが千手観音である。それぞれの手のひらには目があり、持物を執る手、印を結ぶ手がある。
手の数は造像により違いがあり、本来の手と合わせて42臂が多く、他に44臂などもある。
なお、忘れてならないのは、頭上にも小さな顔があり、本来の顔と合わせて十一面あることから「十一面千手観音」ともいう。これも数が異なるものがある。
●千手観音の持物
千手観音の持物(じもつ)については、『千手千眼陀羅尼経』(正しくは『千手千眼観世音菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経』)などの経典に説かれており、実際の彫像、画像などもおおむね経典にしたがって造形されている。
左手の持物
宝戟(ほうげき)千手観音が左手に持つ杖状のもの。先端が3つに分かれた武器。
化仏(けぶつ)小型の仏像。
宝鐸(ほうたく)小型の鐘のこと。
白蓮華(びゃくれんげ)
払子(ほっす)元来は蝿などを追い払うための道具。
羂索(けんさく)投げ縄のこと。
日輪(にちりん)経典には「日精摩尼」(にっしょうまに)とある。
宝輪(ほうりん)経典には「不退金輪」とある。
宝螺(ほうら)ほら貝。
玉環(ぎょくかん)「金環」とも。これに代えて「宝釧」(ほうせん、腕輪)をもつこともある。
髑髏杖(どくろじょう)
紅蓮華(ぐれんげ)
傍牌(ぼうはい)龍の顔を表した楯のようなもの。
宮殿(くうでん)経典には「化宮殿」とある。
五色雲(ごしきうん)右手に持つ場合もある。
宝鉤(ほうこう)経典には「倶尸鉄鉤」とある。先端が直角に曲がった棒状の武器。
宝剣(ほうけん)柄(つか)の部分が三叉に分かれた三鈷剣。
宝弓(ほうきゅう)右手に持つ矢(宝箭)と対をなす。
澡瓶(そうびょう)「軍持」とも。水差しのこと。
右手の持物
錫杖(しゃくじょう)左手にもつ「宝戟」と対をなす。杖の上方に輪をいくつも付けてあり、これを持って歩くと輪が音を発する。元来はインドで山野を歩く際の毒蛇除けに使用したもの。
化仏(けぶつ)
三鈷杵(さんこしょ)中央に握りがあり、両端が三叉になった法具。経典ではこれを持つ手を「跋折羅手」(ばさらしゅ)とする。
青蓮華(しょうれんげ)
楊枝(ようじ)柳の枝。「楊柳」とも。
数珠(じゅず)
月輪(がちりん)経典には「月精摩尼」とある。
宝珠(ほうじゅ)経典には「如意珠」とある。
宝経(ほうきょう)「経篋」(きょうきょう)とも。仏典のこと。
宝印(ほういん)
蒲桃(ぶどう)葡萄のこと。
紫蓮華(しれんげ)
施無畏手(せむいしゅ)持物を持たない手。
宝鏡(ほうきょう)
宝篋(ほうきょう)小箱。「梵篋」とも。
金剛杵(こんごうしょ)「独鈷杵」(とっこしょ)とも。中央に握りがあり、両端に鋭い刃の付いた武器。
鉞斧(えっぷ)「おの」「まさかり」のこと。
宝箭(ほうせん)矢のこと。
胡瓶(こびょう)ペルシャ風の水差し。「宝瓶」とも。
『千手千眼陀羅尼経』では以上の38本の持物をもつ手に加えて「合掌手」と「宝鉢手」を含めて40本の手について言及している。日本における千手観音の実際の造像例を見ると、腹前(坐像の場合は膝上)で2本の手を組み、その上に宝鉢を乗せる形式のものが多い。宝鉢を持つ2本と胸前で合掌する2本の手を合わせて42臂となる。
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