和俗童子訓122

貝原益軒著『和俗童子訓』122

十一に曰、身のかざりも、衣服のそめいろ、もやう(模様)も、目にたたざるをよしとす。身と衣服とのけがれずして、きよ(清)げなるはよし。衣服と身のかざりに、すぐれてきよらをこのみ、人の目にたっほどなるは、あしし。衣服のもやうは、其年よりはくすみて、をい(老)らかなるが、じんじやう(尋常)にして、らうたく(上臈らしく)見ゆ。すぐれてはなやかに、大なるもやうは、目にたちていやし。わが家の分限にすぎて、衣服にきよらをこのみ、身をかざるべからず。只わが身にかなひ、似合たる衣服をきるべし。心は身の主也。たうとぶべし。衣服は身の外にある物なり、かろし。衣服をかざりて、人にほこるは、衣服よりたうとぶべき、其心をうしな(失)へるなり。凡そ人は、其心ざま、身のふるまひをこそ、よく、いさぎよくせまほしけれ。身のかざりは外の事たれば、只、身に応じたる衣服を用ひて、あながちにかざりて、外にかがやかし、人にほこるべからず。おろかなる俗人、又、いやしきしもべ、しづの女などに、衣服のはなやかなるをほめられたりとも、益なし。よき人は、かへりて、そしりいやしむべきわざにこそあれ。


【通釈】

十一、身の飾りも、衣服の染め色、模様も、目につかないのがよい。身と衣服とは汚れがなくて清潔なのがよい。衣服と身の飾りがきれいすぎて目立つほどなのはよくない。衣服の模様は、年齢よりも地味でやや老けて見えるようにするのが普通で、気品があるように見える。華美で大柄な模様は、目立ちすぎて下品である。わが家の分限よりも過ぎて、衣服に綺麗なものを好み、身を飾り立ててはならない。自分の身分相応で似合う衣服を着ること。

心は身の主である。尊ぶべし。衣服は身の外にあり、軽いものである。衣服を飾り立てて人に自慢するのは、衣服より尊ぶべき心を失っているのである。およそ人は、その心ざま、身の振る舞いをこそ、立派なものにすべきである。身の飾りは外の事であるから、ただ我が身に相応の衣服を用いて、無理に着飾り、外見を華美にして、人に見せびらかせることをしてはならない。愚かな俗人や、いやしき下僕、下女などに衣服の華やかなるを褒められたとしても、それはなんの益もない。良い人は、むしろそういう服装に対して非難したり卑しむものである。

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