和俗童子訓116

貝原益軒著『和俗童子訓』116

あによめ(嫂)をば、わがあねと同じくすべし。座につくも、道をゆくも、へりくだり、をくれてゆくべし。四に曰、嫉妬の心、ゆくゆくをこ(起)すべからず。夫婬行あらば、いさむべし。いかりうらむべからず。嫉妬はなはだしければ、其けしき(気色)・ことばもおそろしく、すさまじくして、かへりて、夫にうとまれ、すさめらるるものなり。業平の妻の、「夜半にや君がひとり行らん」とよみしこそ、誠に女の道にかなひて、やさしく聞ゆめれ。およそ、婦人の心たけく、いかり多きは、しうと、をつとにうとまれ、家人にそしられて、家をみだし、人をそこなふ。女の道におゐて、大にそむけり。はらたつ事あらば、おさへてしのぶべし。色にあらはすべからず。女は物ねんじ(憂さ・つらさを忍び堪えること)して、心のどかなる人こそ、さいはい(福)も見はつる理なれ。


【通釈】

(承前)あによめ(嫂)は、我が姉と同じように接すること。座につくのも、道を行くのも、常にへりくだり、後から遅れてゆくこと。

四、嫉妬の心はゆめゆめ起してはならない。夫に婬行があれば、諫めることはしても、怒ったり恨んではならない。嫉妬が甚だしいと、表情や言葉が恐ろしいものとなり、すさまじくなり、逆に夫にうとまれ、捨てられてしまうものである。業平の妻が「夜半(よわ)にや君がひとり行(ゆく)らん」と詠んだのが、誠に女の道にかなって、やさしく聞こえることである。婦人の心が荒々しく、怒ってばかりだと、舅や夫にうとまれ、家人にはそしられて、家の中を乱し、人間関係を壊してしまう。これは女の道に大いに背くものである。腹が立つ事があれば、その気持ちを抑えて忍ぶこと。顔色に出してはならない。女は堪え忍んで心が穏やかな人こそ、幸福が得られるものである。


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