南留別志366

荻生徂徠著『南留別志』366

一 大内家の遺物なりとて、孝孺(こうじゅ)が持ち来て、郢曲(えいきょく)の書を見せつ。宴曲集五巻、宴曲抄三巻、真曲抄一巻、究百抄一巻、拾菓集二巻、拾菓抄一巻、別紙追加一巻、玉林苑二巻、総目録を撰要目録といふ。文保の比(ころ)より応永の比までに作りたる書なり。猿楽さかんになりて、此様なる物もた(絶)えう(失)せたるなるべし。


[語釈]

●孝孺 徂徠の高弟、山県周南 (1687-1752)の名。儒学者で、長州藩藩校・明倫館の二代目学頭。漢詩、国史に精通し、教育者としても名声を博した。周南は号。字(あざな)は次公、少介。徂徠学派は中国風に名乗る風習があり、縣次公、縣孝孺などと称した。大内家は周防・長門をはじめ中国地方を治めた守護大名・戦国大名。なお、孝孺といえば方孝孺(ほう こうじゅ[1357~1402]中国、明初の朱子学者。寧海(浙江省)の人。字(あざな)は希直・希古。号、遜志(そんし)。正学(せいかく)先生と称された。恵帝に仕え、王道政治を説き、燕王(のちの永楽帝)に反抗し、一族・弟子とともに死刑に処せられた。著「遜志斎集」)が有名。 

●郢曲の書 鎌倉時代の僧で歌人の明空(みょうくう/めいくう、生没年不詳)は早歌(宴曲)の創始者及び大成者とされ、早歌の撰集16巻のうちの《宴曲集》《宴曲抄》《真曲抄》《究百集》《拾菓集》を撰し,上記の巻の所収曲120曲中,《春》など81曲を作詞,《秋》など111曲を作曲した。

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