南留別志365
荻生徂徠著『南留別志』365
一 今の世に、寺に寺家(じけ)といふものあり。無学の平僧なり。されども清僧(せいそう)なり。『三代実録』に、筑紫の観音寺に、御使にゆきわたるものゝ、寺家の女にかよひてもたせたる子の、後に親戚の願ひて、筑前の籍貫に入りて、良家となりたる事あり。されば寺家といふもの、古もありと見ゆ。奴婢(ぬひ)のやうなるものにて、寺につかふるなるべし。それが後には、髪をそりて、法師に似たるが、近き世になりて、清僧になりたるなるべし。諸山、諸寺の妻帯の僧達も、百年以来多くは清僧になりたるなり。
[語釈]
●寺家 寺に住む平僧。
●清僧 戒律を守り、品行の正しい僧。肉食・妻帯をしない僧。
●三代実録 『日本三代実録』。平安時代に編纂された歴史書。六国史(りっこくし)の第六にあたり、清和天皇、陽成天皇、光孝天皇の3代である天安2年8月から仁和3年8月までの30年間を扱う。延喜元年に成立。編者は藤原時平、菅原道真、大蔵善行、三統理平。編年体、漢文、全50巻。
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