南留別志363

荻生徂徠著『南留別志』363

一 今の世に、茶堂坊主、掃除坊主などいふ物のある事は、戦国の時に、軍兵、寺領を没収し、僧徒をかすめ取りて、おのがつかひものとしたるなるべし。国初の比(ころ)までも、僧の寺などをうしなひたるは、大名の家へ掃除坊主に出でたり。されども、女犯肉食をせず、おのれが部屋には、本尊をすゑおきて、ひそかに朝夕の勤行をもしたりと、外祖母の語りし。令(りょう)に僧の罪を犯せるをば、徒罪の意にて、百日苦使すといふ事あり。是等やおこり(=起こり。発生)なるべき。


[語釈]

●茶堂坊主 室町・江戸幕府の職名。武家の城中・邸内で、茶の湯や給仕などをつとめたもの。剃髪し、法体であったので坊主という。茶職。茶道坊主。茶屋坊主。数寄屋(すきや)坊主。 

●掃除坊主 掃除之者。江戸城内の御殿の清掃を主な任務とした役職。他に走り使いや物資の運搬にも従事した。目付の支配で、御中間・御小人・御駕籠之者・黒鍬之者とともに五役(ごやく)と呼ばれる職。役高は10俵1人扶持。譜代席で白衣勤めであった。

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