南留別志354

荻生徂徠著『南留別志』354

一 兄弟を「おとゝい」といふは、「おとゝえ」といふ事なるべし。


[解説]徂徠は「兄弟」と記しているが、「おととい」「おととえ」と読むのは「弟兄」という言葉の場合。意味は兄弟に同じ。「弟兄」は逆さ語で、おもに隠語として犯罪者の間で使われる。「しろうと」を「とうしろ」とするように、犯罪者の隠語は逆さにするものが少なからずある。隠語の中でも分かりやすく、ほとんどは世間に知られているものである。一方、兄を「え」、弟と「と」と読むが、これは干支で今も使われている。「庚」が「かのえ」、「己」が「つちのと」というような訓がつけられているが、「か」は「金」(かね)、「つち」は「土」で、木火土金水(もっかどごんすい)の五行思想による。「きのえ・きのと」「ひのえ・ひのと」「つちのえ・つちのと」「かのえ・かのと」「みずのえ・みずのと」と、それぞれ兄弟があり、これにそれぞれ十二支が配される。「きのえね」だと甲子、「みずのとさる」だと癸申といったようになる。昔は元号とともにこれが広く使われた。「元禄壬申の年」(元禄5年)、「文化丁卯」(文化4年)といったように。干支は自動的に年が改まると次のものに進むため、改元されたり元号を知らない人(庶民で無学の人など)でも分かるようになっており、農事暦も干支を基本とした。

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