南留別志319

荻生徂徠著『南留別志』319

一 入唐(にっとう)といふ事は、昔の博士のいかゞ心得たがへたるにか。日本を夷(えびす)にしたる詞なり。


[語釈]

●入唐 日本から唐に行くこと。具体的には奈良・平安時代に僧や留学生・使節などが唐に渡ることを言った。遣唐使など。「にゅうとう」でもよいが、伝統的に「にっとう」と読み慣わしている。


[解説]奈良・平安時代は日本にとって唐(中国)が「世界」の先進国であり、文化文明の手本であり、憧れの国だった。そこで、特に唐へ行くことを「入唐」と言い、当事者にとっては感激と優越感を、それがかなわない人にとっては羨望の言葉となった。徂徠も中国に対する憧れの気持ちは強く、引っ越しをしてそれが西への移動だと「中国に近づいた」と言って喜び、「物徂徠」(ぶっそらい。物は物部(もののべ)の略で、徂徠の家系)という中国風の名前を使ったほど。しかし、溺愛といったことはなく、冷静な部分もあったことが、この一文でもわかる。「入唐」という言い方は、まるで日本が夷、つまり野蛮な未開国、属国であるかのようなもので、卑屈な気持ちがあるということ。徂徠は日本人としての誇りと自負の精神も堅持していた。

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