南留別志297

荻生徂徠著『南留別志』297

一 波利采女巨旦大王は、朝鮮の故事なるにや。蘇民将来といふ。朝鮮に蘇姓あるなり。


[語釈]

●波利采女 頗梨采女(はりさいじょ、はりさいにょ)。牛頭天王の后とされる神。波利采女、波利賽女とも表記。名前の由来は梵語のハリ(水晶の意)に求める説がある。 

●巨旦大王 巨旦将来(こたんしょうらい)。「備後風土記」などに見える伝説上の人物。蘇民将来(そみんしょうらい)の弟。富者であったが武塔(むとう)の神(素戔嗚尊 すさのおのみこと)に乞われた宿を断ったために没落したという。


[解説]徂徠は蘇民将来説話は朝鮮の故事ではないかとするが、確たる証拠は見当たらない。蘇民将来は,紙や板の札に〈蘇民将来子孫之門〉とか〈蘇民将来子孫繁昌也〉と書き,家の戸口に貼って魔よけとしたり,畑に立てて虫よけとする風習が我が国にある。「備後国風土記」逸文には,旅に出た武塔神(素戔嗚尊)が宿を請うたところ,富裕な弟の巨旦将来は断ったが,貧しい兄の蘇民将来は宿にとめ歓待した。武塔神はお礼として茅の輪(ちのわ)の護符を腰につけるように教え、疫病を免れたという。この説話は旧暦6月の夏越(なごし)祭の茅の輪行事の由来譚ともなっている。

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