南留別志269
荻生徂徠著『南留別志』269
一 十の指を、一波羅密(いちはらみつ)といふ事は、真言宗にて印相をむすぶに、十波羅密を十の指のひとつひとつに名づけたるより出でたり。
[語釈]
●波羅密 正しくは波羅蜜。仏教において仏になるために菩薩が行う修行のこと。到彼岸(とうひがん)、度(ど)、波羅蜜多(はらみった)などとも訳す。六波羅蜜と十波羅蜜がある。
六波羅蜜は、大乗仏教で説く悟りの彼岸に至るための6つの修行徳目。六度彼岸(ろくどひがん)や六度とも呼ばれる。
1.布施波羅蜜 檀那(だんな)。分け与えること。具体的には、財施(喜捨を行なう)・無畏施・法施(仏法について教える)などの布施。檀と略す場合もある。
2.持戒波羅蜜 尸羅(しら)。戒律を守ること。在家の場合は五戒(もしくは八戒)を、出家の場合は律に規定された禁戒を守ることを指す。
3.忍辱波羅蜜 羼提(せんだい)。耐え忍ぶこと。
4.精進波羅蜜 精進毘梨耶(びりや)。努力すること。
5.禅定波羅蜜 禅那(ぜんな)。特定の対象に心を集中して、散乱する心を安定させること。
6.般若波羅蜜 慧(え)。慧波羅蜜とも呼ばれ、十波羅蜜の智波羅蜜とは区別される。前五波羅蜜は、この般若波羅蜜を成就するための階梯であるとともに、般若波羅蜜を希求することによって調御、成就される。
十波羅蜜(じっぱらみつ)は、六波羅蜜に、方便・願・力・智の四波羅蜜(六波羅蜜の般若波羅蜜より派生した4つの波羅蜜)を加えたもの。
1.方便波羅蜜 烏波野(うはや、日本語訳:方便)。巧みな手段で衆生を教導し、益すること。
2.願波羅蜜 波羅尼陀那(はらにだな、日本語訳:願)。彼岸すなわち仏の理想世界に到達せんと立願すること。
3.力波羅蜜 波羅(はら、日本語訳:力)。二義あり、一義に一切の異論及び諸魔衆の壊すことなきをいい、また一義に十力の行のうち、思擇力・修習力の2つを修行する。
4.智波羅蜜 智(ち、日本語訳:智)。万法の実相を如実に了知する智慧は生死の此岸を渡りて、涅槃の彼岸に到る船筏の如く、受用法楽智・成熟有情智の2つを修行する。
●印相 仏教において、手の指で様々な形を作り、仏・菩薩・諸尊の内証を標示するもの。印、印契、密印、契印ともいう。修行者が本尊と渉入し融合するために、その本尊の印相を結ぶこともある。もともとは、印相に関する定まった軌則は無かったが、密教の発達に伴って相が定まり、意味が説かれるようになった。
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