南留別志266
荻生徂徠著『南留別志』266
一 吾邦のむかしは、一字平出(いちじへいしゅつ)と一字空までなり。明朝の法は、五字擡頭(たいとう)まであるなり。
[解説]文中に、天皇または貴人の名前、称号などの字のあるとき、その人に対する敬意の表われとして、その一字を次の行へ上げ出して、他の行の頭と同じ高さに書くことを一字平出と言い、大宝律令で導入された。擡頭ともいう。これ以降、公文書の書式となり、私文書でもこれに従う例がみられる。一字空は行換えをせず、敬意を表する固有名詞などの上を一字分空けること。この書式が時代が下がるとともに多く使われた。中国では敬う対象により擡頭する位置が異なり、最高のものになると上図のように囲みの枠を突き破らせるようにした。ちなみに、高等文官試験である科挙の答案でも、対策といった作文では決まりはないものの擡頭を行うことが不文律となっており、行の途中で擡頭をすると下に空白ができるため、それは見苦しいこととしてできるだけ行の下の方までうまく言葉が埋まるようにして見栄えがよいようにした。科挙は皇帝が行うものであることから、作文も皇帝に対する上奏文の形をとる。そのために内容だけでなく、形式も気を使った。
下は科挙の答案の実物。もちろん毛筆で書いた。誤字、脱字があってはならない。
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