南留別志258

荻生徂徠著『南留別志』258

一 時の鐘の数は、大玄経に出でたり。


[語釈]

●大玄経 『太玄経』(たいげんきょう)。前漢の思想家揚雄の著。『易経』を改修して,一層精密な人間の運命を予言しようとしたもの。人間の諸現象は,『老子』の唱える「玄 (無) 」を根源とし,天・地・人を基本要因とし,その組合せでとらえられるとして,その組合せの 81首の図式をつくり,さらに各首にその現象の終始の展開を象徴する9賛をつけている。全部で 729賛が日々昼夜の人事の展開をことごとく示しているとする。


[解説]『太玄経』と時の鐘の数の関係については未詳だが、鐘については『国語』(周語下)に次のような記事がある。

「景王が無射の鐘を鋳造しようとして、楽官の州鳩(しゅうきゅう)に律のことを尋ねた。州鳩はお答えした。律は均を立てて度量衡を定めるためのものです。古は神瞽(しんこ)が中和の音を考えてこれを割り出し制定し、百官はこれを基準にしました。三を以てこれを紀し、六を以てこれを平し、十二とした。これが天の道です」(王將鑄無射、問律于伶州鳩。對曰、律所以立均出度也。古之神瞽、考中聲而量之以制、度律均鍾、百官軌儀。紀之以三、平之以六、成於十二。天之道也)権威ある韋昭の注に、三は天地人で、天神、地祇、人鬼を舞って人と神とが和するとある。

川越では今も時の鐘が朝6時、正午、午後3時、夕方6時にそれぞれ6つずつ搗かれている。揚雄は三を天地人になぞらえ、三を数の基本としている。時の鐘が毎回六つ搗くのも三の倍数で、『太玄経』の思想と関係があるのかもしれない。

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