南留別志254
荻生徂徠著『南留別志』254
一 御前は、女を称する詞なり。伊勢三郎が、妻のねぶ(眠)りたるを、おこすに、「やごぜやごぜ」といひたり。や殿、矢田殿、太平記に見ゆ。「や」はよぶ声なり。今の世に盲女を「ごぜ」といふは、「めくらごぜ」の上を略したるなり。ごぜんとはぬれば、大名の妻をも、家によりてえい(言)はぬ事に覚ゆるは、何(いず)れの世よりの事なるにか。
[解説]御前という言葉は、①貴人の面前を敬う言葉、②神仏や神社仏閣を敬う言葉、③相手を敬って言う言葉であるが、以上のほか、④女性に対して呼びかける言葉でもある。ここでは④について、「太平記」の用例を挙げながら説明している。他にも「義経記」七に「大津次郎、『や、ごぜ、ごぜ』と言ひけれども」といった用例がある。これも女性に対して「やあ、あなた、あなた」と呼び掛けたもの。下の絵は歌川広重の「東海道五拾三次」の内、二川・猿ケ馬場の景。三人の女性が「ごぜ」(瞽女)。この当時になると盲目の女性の旅も可能なほど治安が良くなった。障がい者を傷つけたり金品を強奪するなどした場合は、健常者に対する罪よりも重くした。
0コメント