南留別志242

荻生徂徠著『南留別志』242


一 青苔如衣懸岩肩、白雲似帯遶山腰。声(せい)も合はず。韻もなし。

    苔衣きたる岩はほさもなくてきぬぎぬ山の帯をするかな

  右の詩を評したる歌なり。謡(うたい)作る人の滑稽なるべし。


[解説]漢詩と和歌は謡曲「白楽天」(住吉白楽天)の中にあるもの。「白楽天」は、唐の詩人の白楽天が日本の知恵を探りに来ると、住吉明神が和歌をもって対抗し、船もろとも追い返す、という「滑稽」な作品。この漢詩(青苔は衣の如く岩肩に懸かり、白雲は帯に似て山腰を遶(めぐ)る)は漢詩の規則である平仄も声調もでたらめで押韻もない。「白俗」と言われたように白楽天は平易な詩を作ったが、規則を破るようなことはしておらず、この漢詩は白詩(白楽天の詩)に似せた和製の俗なものである。

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