南留別志236

荻生徂徠著『南留別志』236

一 周防(すおう)国に、菅家の祠(ほこら)をはじめて造れるあり。それに絵像あり。鬚(ひげ)ことのほかにお(生)ひて、威厳なる相のよし、孝孺(こうじゅ)かたりき。まことの御形なるべし。


[解説]周防の国に菅原道真を祀った祠があり(どこにあるか未詳)、そこに道真の肖像画が奉納されているという。その絵は一般の肖像よりも鬚が伸びて威厳ある顔つきであるという。

 左は一般的な道真の肖像(束帯天神像 北野天満宮蔵)。これより鬚の少ないものもある。

 右は三国志でおなじみの関羽(「寿亭公(侯が正しい)関羽」豊国筆)の錦絵。関羽といえば赤ら顔と伸び放題の頭髪と鬚がトレードマークだが、恐らく周防の絵もこのように描かれたのであろう。大宰府に左遷されて失意の中で亡くなった道真は、左遷後は俸給や従者も与えられず、政務にあたることも禁じられるといった庶民のような扱いをされたことから、その恨みや怒りは激しく、死後、さまざまな災厄をもたらしたと恐れられたほど。する事もなく、自暴自棄の暮らしでは、さぞ髪や鬚の手入れもせず、伸び放題だったのではないか。そういう思いから関羽のような肖像が描かれても不思議ではないし、むしろこのほうがリアルな感じもする。徂徠も「まことの御形なるべし」と伸び放題の鬚面をよしとする。

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