南留別志222

荻生徂徠著『南留別志』222

一 大織冠より前は、天児屋根の苗裔(びょうえい)の、政とりたる事なきを、神と人とのちがひなど、ことごとしくいへるは、延喜(えんぎ)、天暦(てんりゃく)の頃ほひに、博士どもの諛(へつら)へるなるべし。


[語釈]

●大織冠 たいしょくかん、たいしきかん。647年から685年まで用いられた冠位、またその標章たる冠をいう。冠位としては単に大織ともいう。冠位の最上位で、下には小織がある。 史上藤原鎌足だけが授かった。 

●天児屋根 天児屋根命(あめのこやねのみこと)。『古事記』では天児屋命、『日本書紀』は天児屋根命と表記される。通称として春日権現(かすがごんげん)、春日大明神とも呼ぶ。『古事記』には岩戸隠れの際、岩戸の前で祝詞を唱え、天照大御神が岩戸を少し開いたときに布刀玉命(ふとだまのみこと)とともに鏡を差し出した。天孫降臨の際、邇邇芸命(ににぎのみこと)に随伴し、中臣連(なかとみのむらじ)の祖となったとある。 

●苗裔 子孫。


[解説]神話を史実のように権力者に諂い説明する学者の態度を徂徠が批判したもの。曲学阿世の徒の見本。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。