南留別志165

荻生徂徠著『南留別志』165

一 能の狂言のぶあく(武悪)いぐゐ(居杭/井杭)、大和物語のまかぢ(真楫)、源平軍物語の老竹、若竹、曽我物語のかたかい(片貝)、浅草の観音をとりあげし浜成竹成など、古はいやしきものゝ名は、大かたかくこそつきたらめと思はる。


[語釈]

●ぶあく 狂言面の一。目尻の下がった大きな目、下唇をかみしめ上歯を見せた口などが特徴の滑稽な鬼の面。鬼・閻魔(えんま)などに用いる。 

●いぐゐ 狂言の曲名。雑狂言。和泉流では『井杭』と書く。居杭という者が、清水観音で頭にかぶると姿の消える頭巾(ずきん)を手に入れ、周囲の人々をからかう。 

●まかぢ 下野の国に住む男の従者(少年)。 

●源平軍物語の老竹、若竹 源平盛衰記の老松、若松の話。海に沈んだ剣を探すため、源義経は老松・若松という海女の親子を雇い、海底を探させる。すると老松は海の底に豪華な宮殿を見つける。そこには平家一門の亡霊が暮らしており、剣は安徳天皇と共に大蛇に抱かれていたという。 

●曽我物語のかたかい 三浦の別当の美女の召使い。 

●浅草の観音をとりあげし浜成竹成 628年3月18日早朝、漁師の檜前(ひのくま)浜成(はまなり)、竹成(たけなり)の兄弟が隅田川で漁労していた時、網に観音像がひっかかり持ち帰った。土師真中知(はじのまつち)は剃髪して僧となり、自宅を寺として観音像を本尊とした。これが浅草寺の始まり。二人は土師真中知とともに浅草神社の祭神として祀られている。聖観音菩薩像は秘仏で全く公開されず、次第に存在を疑う人が多くなったことから、明治2年に役人が調査したところ、約20センチで存在を確認したという。しかし、その後は現在に至るまで公開されていない。寺の僧侶たちも見ることはないという。


[解説]昔は、身分の賤しい者の名前は他愛もない所からつけられたという例。


源平盛衰記。全48巻24冊、紅葉山文庫旧蔵。

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