南留別志160
荻生徂徠著『南留別志』160
一 青牛不渡大洋海(青牛は大洋海を渡らず)といへる、げにさる故にや。仙の字に訓なし。「やまひと」といふは、し(強)ひてつけたるなり。「たちぬはぬきぬきる人」などいふ、あきらかなり。
[語釈]
●青牛 太上老君(たいじょうろうくん)の乗り物。太上老君は道教における神で、老子が神格化されたもの。『西遊記』では青牛が下界に逃げ、三蔵法師たちを捕らえる。孫悟空は助けようと立ち向かうが如意棒を奪われ退却。天界に援軍を求めるも、援軍の武器も次々と奪われなすすべがない。途方に暮れていると、如来から「太上老君を頼れ」との助言を伝えられた。太上老君に事情を話した所、獨角兕大王(どっかくじだいおう)に化けていた青牛の正体が判明し、おびき寄せて太上老君の力で捕えることに成功するという話がある。画像は青牛に乗る太上老君(老子)。
●たちぬはぬきぬきる人 『古今和歌集』926番の歌に「たちぬはぬきぬきし人もなきものをなに山姫のぬのさらすらむ」(伊勢)とある。歌意は、「裁縫をしない衣を着たという仙人のいないのに、どうして、山姫は衣を晒したりするのでしょうか」。詞書は「竜門にまうててたきのもとにてよめる」。
[解説]仙人の「仙」の字は和訓がない。我が国にはそのような人がいなかったからで、徂徠は古今集の伊勢の歌を引き合いに出して、「たちぬはぬきぬきる人」という言い方で中国における仙人を表現していることから、のちに「山人(やまひと)」と無理につけたのは元の意味とは違うとする。「仙」は山に入って不老不死の術を究めた人のこと。正しくは「僊」(セン)。
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