南留別志151

荻生徂徠著『南留別志』151

一 虎を「とら」といふ。羊を「ひつじ」といふ。此国になき物なれば、和名あるべきやうなし。「とら」は朝鮮語なりといふ。さもあるべし。「ひつじ」も、異国の詞なるにや。象を「きざ」といふは、舟に刻みめをつけて、おもさをしりたるよりいふといへるは、異国の古事なり。いぶかしき事なり。豹(ひょう)を「なかつかみ」といふは、歌書にもいはず。むつかしき詞なり。何ものゝ作りいでたる事ならん。


[解説]もともと我が国に生息していなかった動物にも和訓があるが、その意味、由来について、徂徠は異国の言葉が和語化したものであろうとする。象は現在は音読みの「ぞう」をそのまま使っているが、秋田県にある象潟(きさかた)という地名が、象の古名である「きさ」(きざ、とも)を今に残し伝えている。難読地名に入れられているが、むしろ伝統的日本語といってよいものだろう。『和名抄』に「和名 伎左(きさ)」、『名義抄』に「キサ キザ サウ」、『色葉字類抄』に「象 セウ 平声 俗キサ」とある。万葉集には、「象山(きさやま)」「象(きさ)の小川」「象(きさ)の中山」という用例がみえている。

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