南留別志130
荻生徂徠著『南留別志』130
一 「ふたつ」は「ひとつ」の音(おん)の転ぜるなり。「むつ」は「みつ」の転ぜるなり。「やつ」は「よつ」の転ぜるなり。「いつゝ」「なゝつ」は、いづれも「なに」といふ事なり。「こゝのつ」は「こゝら」、「こゝだく」の「こゝ」なるべし。「とを」は「つゞ」の転ぜるなり。「つゞ」とは、こゝにいたりて、筭(←竹冠に弄)をつゞめて一にするなり。
[解説]数を数える和語について、一つと二つ、三つと六つ、四つと八つはそれぞれ倍数で、和語も転訛した関係にあるとする。そう言われてみれば確かに一つ二つはハ行、三つと六つはマ行、四つと八つはヤ行で揃っている。「いつつ」は「いくつ」(幾つ)、「ななつ」は「なにつ」(何つ)だという。「ここのつ」の「ここ」は「此処」、「とお」は到達してつづめる意味で、再び一から算(かぞ)える意味であるという。よく、一つ、二つと数えて九つまで「つ」がつくのに、なぜ十だけつかないのかといった疑問が持たれる。「とおつ」「とつ」でもおかしくはないし、慣れればなんとも感じないが、しかし「十つ」とは言わない。方言にもない。その理由はつづめる数で、他とは性質が違うからだとする。真相も大切だが、それよりもふだん何気なく使っている言葉に疑問を持ち、自分なりにいろいろ推量することも大切である。
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