南留別志117

荻生徂徠著『南留別志』117

一 牙を「きば」とよむ事は、歯字をつゞけたるなるべし。足利の学校に蔵せる易の点に、猪牙を「ゐのき」とよめり。今の世俗にもさいふなり。


[語釈]

●足利の学校 足利学校。下野国(しもつけのくに)足利荘(現在の栃木県足利市)にあった、平安時代初期もしくは鎌倉時代に創設されたと伝えられる中世の高等教育機関。室町時代から戦国時代にかけて、関東における事実上の最高学府であった。創設者は諸説あり、足利義兼が最有力説。「坂東の学校」と称された。1868年まで存続、1915年図書館となる。 

●易の点 足利学校に所蔵する『易経』につけられた訓点、フリガナ。 

●さいふ そのように言う。


[解説]牙の字は元来「き」と読み、足利学校蔵書の易のフリガナを例とし、牙を「きば」と読むようになったのは、牙(き)と歯(は)を続けた読みが牙の字一字の訓になったものだろうと徂徠の考え。

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