南留別志109
荻生徂徠著『南留別志』109
一 朝臣といふ事、もと朝廷の臣といふ事にて、漢語より出でたり。後に和訓をつくる時に、朝夕の意をかりて、「あさおん」の反(はん)にて、「あそん」とよみたるなり。
[解説]反とは反切(はんせつ)のこと。反切とは、漢字の発音を示す伝統的な方法のひとつ。2つの漢字を用い、一方の声母と、他方の韻母および声調を組み合わせて、その漢字の音を表す。読みの難しい字や、正確に発音を示す時などに使われる。たとえば「省は悉井反」。「省」という字は「悉」(しつ)の声母「s」と「井」(せい)の韻母(ei)を合わせるとsei(せい)となり、「省」の音は「せい」(反省、省察など)となる。また、「元は愚袁の反」(げんはぐえんのはん)は、「愚」のgと「袁」enを合わせてgen(げん)となる。「元は愚袁の切」というように、「~の切(せつ)」という言い方もあるので反切というが、「反」のほうが多い。日本語の音読みでだいたい合致するが、稀に合わない字もある。反切はあくまで漢文(中国語)でのものであり、音読みと中国音が乖離しているものや、中国音でも地域や時代によって違いがあるため、若干の食い違いの存在はやむを得ない。
で、徂徠の説明だが、朝臣(ちょうしん)を和訓で「あそん」と読むようになったのも反切を用いたもので、本来は音読みを使うところ訓読みの「あさ」(as)と「おん」(on)を合わせて「あそん」(ason)としたとする。漢語を我が国のものにするにあたり、古人はいろいろな方法や工夫を凝らすことをしたということが言いたいのだろう。
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