南留別志104

荻生徂徠著『南留別志』104

一 君子を「まめびと」とよめるは、伊勢物語に本づきたれば、関雎(かんしょ)にかぎりての事なるべし。外の処には用ひがたし。


[解説]『伊勢物語』第二段に「まめ男」というのが見える。全文を引く。

昔、男ありけり。奈良の京は離れ、この京は人の家まだ定まらざりける時に、西の京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは心なむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。それを、かのまめ男、うち物語らひて、帰り来て、いかが思ひけむ、時は弥生のついたち、雨そほ降るにやりける、

   起きもせず寝もせで夜を明かしては

    春のものとてながめ暮らしつ

 この「まめ男」は「忠実男」、まじめな男と解されている。『伊勢物語』の「男」は在原業平を指し、この「まめ男」も業平のこととして解釈されることが多いが、原文を見る限りでは業平であることを示すものは何もない。業平といえば色好み。「まめ男」はそれとは対極にあるといってもよく、この点から、業平とは別の男と解釈する向きもある。

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