南留別志103

荻生徂徠著『南留別志』103

一 窈窕(ようちょう)を「にほびか」とよむ事は、何に本づきたるにか。「ゆほびか」を誤れるなるべしと、元喬(げんきょう)云ひき。


[語釈]

●窈窕 儒家の経典の一つ、『詩経』の周南の「関雎」(かんしょ)という詩に見える古いことば。奥深い、美しい、気高いといった意味で、周の文王と王妃の仲睦まじい様子を詠った詩といわれている。以下、原文を示す。

  關關雎鳩  關關(かんかん)たる雎鳩(しょきゅう)は

  在河之洲  河の洲(す)にあり

  窈窕淑女  窈窕たる淑女は

  君子好逑  君子の好逑(こうきゅう)

  參差行菜  參差(しんし)たる行菜(こうさい)は

  左右流之  左右に之を流(もと)む

  窈窕淑女  窈窕たる淑女は

  寤寐求之  寤めても寐(い)ねても之を求む

  求之不得  之を求むれども得ざれば

  寤寐思服  寤めても寐ねても思服す

  悠哉悠哉  悠なる哉(かな) 悠なる哉

  輾轉反側  輾轉反側す

  參差行菜  參差たる行菜は

  左右采之  左右に之を采(と)る

  窈窕淑女  窈窕たる淑女は

  琴瑟友之  琴瑟(きんしつ)もて之を友とせん

  參差行菜  參差たる行菜は

  左右撰之  左右に之を撰(えら)ぶ

  窈窕淑女  窈窕たる淑女は

  鍾鼓樂之  鍾鼓(しょうこ)もて之を樂しましめん

 ●元喬 徂徠の高弟、服部南郭の名。

過去の出来事

過去の本日の朝廷や江戸幕府の人事一覧、その他の出来事を紹介します。ほかに昔に関する雑記など。