南留別志98
荻生徂徠著『南留別志』98
一 知を「とも」とよむは、新知、旧知、知己、などの意なり。周を「ちか」とよむは、周親の義なり。治を「はる」とよむは、墾の義なり。昌を「まさ」とよむ事は、孔安国が昌言を註して、「昌当也」(昌は当なり)といへるより出(い)でたり。光を「みつ」とよむも、「光充也」(光は充なり)より出でたり。孝を「たか」とよむも、孔安国が孝経序に、「孝者、人之高行」(孝とは、人の高く行うなり)といふより出でたり。
[語釈]
●孔安国 中国、前漢の儒者。字(あざな)は子国。孔子より12代の孫。曲阜(きょくふ)(山東省)の人。生没年未詳。武帝の時、孔子の旧宅から蝌蚪(かと)文字で書かれた「尚書(しょうしょ)」「論語」「孝経」「礼記(らいき)」が出たので、「今文尚書(きんぶんしょうしょ)」と比較研究し「古文尚書」の注釈を著した。
[解説]知を「とも」、周を「ちか」、治を「はる」など、おもに人名で使われている訓読みの意味について、孔安国の注釈を交えて説明したもの。字には原義のほか、時代とともに派生した意味もあり、例えば「孝」は老人を支える(いたわる)子のさまを表わした字だが、孝(コウ)と高(コウ)の音が通じることから、高い行い、立派な行いということで「たか」「たかし」という訓がつけられた、といった類である。原義から孝を「ささえる」「いたわる」といった訓がつけられてもよさそうだが、訓にも音の共通する別の字を仮借するといった法則があるということ。
『古文孝経』孔安国 [伝] 、隝謙吉図書印、市島春城旧蔵本
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