南留別志91

荻生徂徠著『南留別志』91

一 神社に地をさかひて、こゝまでは此神(このかみ)の氏子なりといふは、神封(じんぷ)の地なるべし。後には封戸なき神にも、そのまねをしていへるは、たれがゆるしたるにや。乱世には、人の心のまゝに地を領せるなるべし。されども、神いくさのなきはいかにぞや。


[語釈]

●氏子 氏神が守ってくれる範囲に生まれた者。氏神をまつる権利と義務をもつ地域集団の成員。英雄などをまつる神社で祭祀圏が地域的に限定されない場合は,氏子は普通存在しない。氏子の地域的閉鎖性は本来血縁の神であった氏神の信仰が地縁化したことに照応するもので,土地に生まれた子やよそから嫁入り婿入りしたものは宮参りをして氏子入りの承認を受ける。 

●神封 神社に対して寄進された封戸。神封の住民は租税や課役を神社に納めたり、祝などの役職を務めることで神社に奉仕した。こうした住民を神封戸と呼ぶ。


[解説]氏神と氏子というのは、古くは極めて閉鎖された社会を形成していたものだが、徂徠の頃には封戸のない神社も各地に出来、その氏子と称する人たちも次々と現れたらしい。これは神道の信者が増えだしたことを意味するが、江戸時代には寺領は幕府によって厳しく定められ、寄進などによって範囲を広げる場合は許可証たる朱印状の交付を受けなければならなかった。神社も同様(当時はまだ神仏習合が続いていたので、寺と神社が一体化していた所も多かった)。ただ、江戸時代は次第に神社(神道)が寺(仏教)よりも上であるという思想が広がりはじめ、新たに氏子を自称する人たちが現れた。こういう動きに対して、誰が許したのかと徂徠は批判している。

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