南留別志90

荻生徂徠著『南留別志』90

一 一字訓伝は、わが邦の釈名(しゃくみょう)なり。釈名は、古(いにしえ)より伝はれる事にはあらず。劉煕(りゅうき)が作れるなり。明の魏荘渠(ぎそうきょ)六書精蘊(りくしょせいうん)を作れり。異国にもかゝる事を好める人ありけり。


[語釈]

●一字訓伝 不詳。 

●釈名 中国の字書。後漢末の劉煕 の著。同音の言葉によって語源を説明したもの。その内容によって釈天,釈地,釈山に始り,釈疾病,釈喪制に終る 27編に分類。音声の近い語は意味にも関連があるとする「声訓」の立場から解説を加えている点に特色がある。


[解説]専門的になるが、これらの書物は伝統的な漢籍の分類では「経」(けい)部のうち「小学」類の字書に分類されるもの。読むための書物ではなく、必要に応じて調べたり確認をしたりする道具として使うことから、今日では工具書とも言っている(索引、年表、図録、辞典など)。徂徠が言う「好める人」というのは、こういった字書類を編むのが好きな人を指すのだろう。今ではパソコンで膨大な文献の中から必要な字や単語、項目をすぐ検索できるまでになったし、編集もまた機械でできる。しかし、それまでは辞書や索引はすべて手作業でカードに記入することからはじめたもので、私も必要と趣味から索引類を手書きで作成してきた(今も継続)ので、古人の苦労がわかる。短い文ながら、こういった作業や書物に対して、徂徠が敬意を表していることがわかる。

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