南留別志88
荻生徂徠著『南留別志』88
一 えとは、兄弟なり。
[解説]現在、「えと」と耳にすると「干支」を思い浮かべるし、「干支」という言葉自体、「えと」と読んでいる。しかし、本来は音読みの「かんし」であり、「えと」という訓はない。一方、徂徠の言うように「えと」は「兄弟」の意だが、古語の「えと」は二つが対になっているものを指し、順序立てて言ったものが「えと」。陰陽に代表されるように、昼と夜、明と暗、男と女といった、両方があって一つのものを生み出したり形成するものはすべて「えと」である。
暦で「きのえね」「ひのと」といった表示のあるものがあるが、この「え」「と」こそが「えと」である。「き」「ひ」は木火土金水(もっかどごんすい)の「木」と「火」のこと。これは陰陽説と五行説が結びついたもので、中国由来のもの。図示すると次のようになる。
五行 十干 兄弟 陰陽
木 甲 兄 陽 きのえ
木 乙 弟 陰 きのと
火 丙 兄 陽 ひのえ
火 丁 弟 陰 ひのと
土 戊 兄 陽 つちのえ
土 己 弟 陰 つちのと
金 庚 兄 陽 かのえ
金 辛 弟 陰 かのと
水 壬 兄 陽 みずのえ
水 癸 弟 陰 みずのと
さらに、これらに十二支を組み合わせて「きのえね」(甲子)「ひのえうま」(丙午)と表わし、年や日にちを数えるのに使った。組み合わせは60通りで、60年を還暦というのは、ちょうど一巡して元に還ることによる。十干は世の中のさまざまなものの変化を植物の成長にたとえたもの。同じ属性のものが一対ずつで「兄弟」(えと)となる。陰陽五行説、十干十二支はとても複雑で奥が深く、国や地域によって違いがあり(特に十二支)、日本でも独特の考え方がされて、それが伝統となったので、すべてを紹介することはとてもできない。徂徠が言いたいのも、「えと」は十二支(動物)のことではなく「兄弟」であるということ。
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